悪性胸膜中皮腫とは肺や胸壁の表面を覆う胸膜の中皮細胞から発生するがんです。日本では造船業が歴史的に盛んな、呉・神戸・横須賀などで多く、主に石綿(アスベスト)を扱う仕事にかかわったことのある方に起こります。石綿を扱ってから20~40 年経って発生するために高齢の患者さんが多く、建築物の老朽化に伴う解体工事などにより、今後もしばらくは増加すると考えられています。
悪性胸膜中皮腫は胸膜から起こる病気です。胸膜は外側の壁側胸膜と肺の表面を覆う臓側胸膜の2枚の膜(図の黄線)から構成されています。壁側胸膜から発生した悪性胸膜中皮腫は、臓側胸膜に拡がり厚くなります。壁側胸膜と臓側胸膜の間の胸腔(きょうくう)と呼ばれる場所に水が溜まります。大量に水がたまって苦しい場合には水を抜く処置をしなければなりません。
アスベストは自然界に存在する鉱物の一つであり、石綿といわれるように綿状の形態をした物質です。加工が非常に容易で、安価であり、物理化学的性質から断熱材、耐火材、摩擦材などにひろく使用されてきました。石綿は、建材、摩擦材、断熱材などに広く使用されていますが、健康被害が問題となり、我が国でも2006年に全面使用禁止とされました。造船業、建築解体業、自動車のブレーキなどを扱っていたことのある方は要注意です!
初期では症状が認められない場合もあり、検査で胸に水が貯まっていることを指摘され始めて病気の存在に気がつくこともあります。最も多く見られる症状は胸痛・背部痛、呼吸困難であり、発熱や咳などの症状も認められます。
確定診断のためには、胸にたまった水を抜いて細胞を調べる胸水細胞診や、CTガイド下や胸腔鏡下などを使って胸膜の一部を採取する胸膜生検を行います。また、病気の広がりを調べるために胸部造影CT、PET/CT検査などを行い、病気の進行度を決定してそれに応じた治療法を検討します。しかし、良性の胸膜疾患やその他の悪性腫瘍(肺腺癌、転移性腺癌など)と鑑別することが困難な場合があり、時間がかかることもあります。
病巣が周囲への広がりが少なく、切除により根治できる可能性がある場合には手術の適応となります。肺と胸壁にある腫瘍細胞をすべて摘出するため、「胸膜肺全摘」と呼ばれる手術が行われます。片側の肺とその周りの壁側胸膜を合わせて摘出する大きな手術です。図のように大きな手術創から、壁側胸膜を含めて片方の肺を摘出します。
手術以外の治療法は、放射線療法および抗がん剤治療があり、単独またはそれらを組み合わせた集学的治療を行う場合もあります。また、合併症や副作用が懸念される高齢の患者さんでは積極的な治療を行わず、症状緩和を中心に治療することもあります。
悪性胸膜中皮腫と診断された場合、石綿に関連する仕事をしていた方には、労災保険による給付があります。労災保険の給付を受けられない方には、平成18年から「石綿健康被害救済制度」による「救済給付」と「特別遺族給付金」が設けられています。