転移性肺腫瘍は、よく聞く肺癌とは別の病気です。転移性肺腫瘍は、ほかの臓器のがん細胞(この場合ですと大腸癌)が肺に転移したものをいいます。転移性肺腫瘍の細胞は、もとのがんと同じ型ですので、腫瘍が最初に体のどの部位でできたものなのかは、治療方針を立てるうえでとても重要です。原発性肺癌とは治療方針も大きく違います。
転移性肺腫瘍はかなり大きくなるまで通常無症状です。ただし、元の腫瘍によって肺への転移の仕方にもある程度特徴があり、そのため症状の出方にも多少の違いがあります。肺門(肺の付け根の部分)に転移した腫瘍では、痰に血が混ざったり苦しくなったりします。腫瘍細胞が胸の中に拡がって、胸水(悪性胸水、あくせいきょうすい)が貯留することがあります。このような場合、強い呼吸困難が起こります。
多くの場合、元となる腫瘍の治療が先に行われていますから、治療中や治療後の経過観察で胸部X線写真や胸部CT写真を撮影して発見されます。胸部X線写真では直径1-2cm程度の比較的小型の周囲がはっきりとした形の陰影がみられることが多く、胸部CT写真では直径3-4mmぐらいの大きさのものからみつけることが可能です。
写真は直腸癌術後通院中に発見された左肺の病変です。切除手術が行われ、直腸癌の転移性肺腫瘍と診断されました。
原発性肺癌のように確定診断のために気管支鏡で組織や細胞を取ってきて顕微鏡で診断を確定することなく、治療を開始することも行われます。確定診断には組織を調べなければなりません。
腫瘍が血流に乗って肺に転移しているので、現在胸部X線写真やCT写真に写っている以上に腫瘍細胞が肺の中やほかの臓器の中に潜んでいる可能性が高いと考えなければなりません。したがって治療の原則は抗がん薬や分子標的治療薬などによる治療となります。抗がん剤や分子標的治療薬も元の臓器の腫瘍の治療薬が使われます。
肺以外の臓器に転移が無く、その数も数個程度である場合には手術や放射線療法などの局所治療を行う場合があります。このように肺にだけ転移が出現しその数も数個程度という転移の形態を示すことがあるがんとしては、大腸がん、骨肉腫、子宮がん、腎臓がん、乳がん、軟部組織腫瘍(滑膜細胞肉腫、悪性線維組織肉腫など)、頭頸部がん、などがあります(図1)。
局所治療を行う基準としてはThomfordの基準を参考にします(表1)。
表1.Thomfordの基準(1965)
多くの場合、転移巣の周りの肺だけを一緒に切除する比較的小さい切除法(肺部分切除)を行います。ただしこの方法では腫瘍の場所が肺の外側にあるものに限られます。大きな腫瘍や肺の付け根(肺門近く)にできたがんは、より広範な肺の切除が必要となります。